今回紹介する〈レ・シェ・デュ・ポール・ドゥ・ラ・リュンヌ〉と〈モビー・グレープ〉のペアリング。
なぜこれらを取り上げたかというと、まずワイン名が「FOLK」。そして、バンド名が「グレープ」。完全に名前に惹かれました……冒頭から独り言に付き合っていただきありがとうございます。
冗談はさておき。今回お勧めしたいのは、この2つの音楽とワインに共通する「多様性の豊さ」に注目して欲しいのです。
簡単なアウトラインを説明すると、〈レ・シェ・デュ・ポール・ドゥ・ラ・リュンヌ〉はフランスの田園都市の中にある住宅を改装した世界でも稀なアーバンワイナリー。
一方〈モビー・グレープ〉は、アメリカのサンフランシスコを拠点に1960年代後半に活躍したロックバンド。フォーク、カントリー、ブルース、R&Bなど、様々なジャンルの音楽を演奏し、そのサウンドは他のどのバンドにも類を見ないものでした。

ボルドーにあって、
ボルドーらしくないワイン。
〈レ・シェ・デュ・ポール・ドゥ・ラ・リュンヌ〉の舞台となるボルドーは、世界で最も高名でクラシックなワイン産地の一つ。その高い格式からボルドー=ナチュラルワインというイメージが湧きにくいですが、近年、一大産地へと変貌を遂げているのはご存じでしょうか。
そんなボルドー地方の新たな潮流の一つとして、街の中心地から離れた地区でナチュラルワイン造りに挑む若き醸造家たちが現れ始めています。〈レ・シェ・デュ・ポール・ドゥ・ラ・リュンヌ〉はその一つなのです。
ワイナリーのコンセプトは「ワインを飲む場所でワインを造る」。醸造を都市の真ん中で行うことで小規模ならではの柔軟な発想や自由な原料選びが、新しい美味しさにつながります。
個人的に思うこのワイナリーの魅力は、自分達の目指すゴールの味が見えているところ。葡萄をフランス全土のパートナーから調達しブレンドして造られるワインは、それぞれの葡萄の特徴を補完し合うことによって、複雑で豊かな仕上がりに。
お勧めしたい「FOLK」のセパージュはセミヨン60%(ジロンド産)、シュナン20%(アンジュ産)、 シャルドネ20%(リムー産)。3つの特性が合わさり、ピーチ、アプリコット、パイナップルのしっかりとした果実味が感じられる一本です。

多様でユニーク、そして
高い音楽性が支持を集める。
60年代後期のサンフランシスコ・ロック勢の中でも米ルーツ音楽のミクスチャーぶりと、独特の存在感・サウンドで異彩を放った〈モビー・グレープ〉。
当時のビートルズを代表とする英国ロックの台頭、度重なるセールス不振などが重なり、歴史上マイナーな存在に甘んじていますが、かなりの実力派バンドであったことは間違いないです。
日本でも〈はっぴいえんど〉、特にメンバーの細野晴臣氏がフェイバリットに挙げていたほど。例えば「夏なんです」のイントロは「He」に影響されたと後に語っています。
シュールなダリ風の油絵っぽいジャケットが印象的な「Wow」は彼らの2ndアルバム。先ほど紹介した「He」は、特に注目すべき曲です。これだけ聴いているとすごく静かなフォークロック。
一方で、テープの早回しを使った実験的な曲「Funky-Tunk」、レトロな酒場の雰囲気を再現した「JUST LIKE GENE/AUTRY A FOXTROT」。
その他、カントリー、ブルース、R&B…。とにかく色々な個性が盛り込まれています。短命な活動に終わりながらもユニークな存在感で人気を誇った彼らの音楽に、一度触れていただきたいです。
ワイン×濃密なサウンド=
無限の可能性。
3つの葡萄品種をブレンドした「FOLK」。飲み手の好みやシチュエーションによって、どの葡萄の個性が強く感じられるかが千差万別なところ。また時間軸においても味の変化がかなり感じられるなど、ワインとしての完成度に匹敵するくらい、自由度が高いところに魅力があります。
このワインの高い次元での自由さ、そしてアルバム「Wow」の曲やアレンジの多様性を掛け合わせると、まさに無限の楽しみが生まれる。そんなところにペアリングの面白さがあると思います。
ぜひ2〜3人で集まって「ああでもない」「こうでもない」と語り合う、至福のひと時を味わってください。



